お線香・お香の豆知識

❶ 線香代(せんこうだい)・線香場(せんこうば)

花街では芸妓さんの花代のことを線香代と言います。これは時間を計るためにお線香を使ったからです。また、その線香は帳場に置いた大きめの香炉に立てていましたので、帳場のことを線香場とも呼んでいました。

古典落語にも『立ち切れ線香』と言う演目があり、お線香の燃え尽きることが落ちになっています。

❷ 線香水(せんこうみず)

香川県などの水田で潅漑用水を公平に分配するためお線香を利用しました。決められた寸法の堰を決められた時間だけ開き、水田に引き込む水の量を計ります。

決められた長さのお線香に点火すると同時に堰を開き、燃え尽きた時に閉めて配分に不公平がないようにしていました。だから線香水と呼ぶのです。

❸ 蚊遣り線香(かやりせんこう)

明治時代に除虫菊の粉を線香に配合して焚くと蚊の駆除になることが分かり、蚊取り線香が発明されました。当初は線香状のものや長細い紙袋の中に粉末の除虫菊を詰めたようなものでした。しかし、燃焼時間が短いので、後に渦巻型が発明され一般的になりました。

当社でも昭和初期まで蚊取り線香を製造しておりましたが、その品名は蚊遣り線香。蚊を殺す目的ではなく、追い払うために使います。昔は蚊取り線香一つにもどこか優雅で控えめな所があったのです。

写真は、蚊遣り線香の拡販のために東京玉初堂の宣伝隊が出発する時の様子です。
東京玉初堂は明治時代の初期から開設準備を進めて営業をしていましたが、関東大震災で焼失。その後、再建するものの昭和17 年に閉鎖し、大阪だけを拠点にしました。 

❹ お供え用線香の体裁

お線香をお供えする時は、掛け紙(奉書)に上書きが必要です。通常上書きには『御香』 『御供』、下部に姓名、会社名などを書き入れます。『御仏前』『ご霊前』と書くこともありますが、本来、掛け紙(奉書)の上書きは中身を表す目録の役目を担っていますので『御香』『御供』と書くのが良いでしょう。お線香を持参し手渡す時『このお線香を御仏前にお供え下さい。』と言った言葉がいつの間にか上書きに使われたのです。御仏前は仏様や仏壇の前、ご霊前は死者を祀った祭壇の前と言う意味です。

❺ 婚礼用お線香の体裁

婚儀に際し、嫁ぎ先のご先祖様へのお土産としてお線香や御香を持参します。また、初めての里帰りには嫁ぎ先から返礼として、お線香を持たせます。掛け紙(奉書)の上書きは『清香』『御香』『ご先祖様 御土産』と書き、下部には姓を省いて名のみを書き入れます。 

婚礼用のお線香は金銀の水引、紅白の掛け紙(奉書)を使って仕立てています。

❻ 量より質が重要な香りの真髄

香りは量より質が重要です。

香十徳(※)の中に、多くても邪魔にならない、少なくても足りると表されているのは良い香りのお香を指します。よい香りは少なくても良い香りです。しかし、質の低いお香やお線香をたくさん焚いても決して良い香りには変わりません。

※香十徳とは…
中国は宋の時代に黄山谷が唱えました。黄山谷は、香を愛玩するあまり、「香癖老人」と呼ばれたそうです。  

昭和15年1月25日発行
志野流香道 19世家元 蜂谷宗由「香道を語る」天満叢誌第五編より

❼ 香道について

今から500年ほど前、室町時代、東山文化を代表する足利義政や志野宗信、三条西実隆らによって茶道や華道とならぶ芸道として体系化されました。志野流香道は志野宗信を流祖としています。その歴史は代々のお家元によって受け継がれ、連綿と続いて現在に至ります。 

香道の真髄は沈香という天然の香木のみを使い、その香りを鑑賞し、親しむことにあります。通常、香席では万葉集、古今集などの古典文学や四季の移ろいなどをモチーフとして作られた『組香』という形式で香木の香りを聞き当てます。それには決められた作法や手前があり、それを通じて古典文学にも親しめるのです。各地で香道教室や香の会が催されていますので、どうぞご参加下さい。 

志野流香道のホームページはこちらです。

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